第1回:ジーンズ1本縫うのにミシンはいくらする?

ミシンのお話。


ミシンといえば
昔は嫁入り道具の必須アイテムでしたが、最近は家庭科の授業以来、触ったこともないという方も少なくないのではないでしょうか。

ミシンは大きく分けて、家庭用・職業用・工業用に分かれています。

家庭用ミシンは一台で直線縫いからジグザグ・ボタンホールなど、1台で洋服が完成するように、色々な機能がついています。
安いもので数万円〜刺繍もできるような最高級品なら30万円くらいでしょうか。

職業用ミシンはお直し屋さんなどのセミプロ向けで、基本的に直線縫いしかできませんが、縫い目がきれいで、毎日の使用に耐える頑丈さとスピードがあります。
だいたい10〜15万円くらい。

工業用ミシンは完全にプロ向けで、
1つの縫い方しかできませんが、その代わりに、その縫い方を極限まで追求しています。
オイルが焼けて煙が出るくらいフルスピードで縫い続けても糸調子が狂いませんし、とにかく頑丈です。

糸切りも自動、押さえの上げ下げもエアーの力で自動。

また、核心部分はわざと電子化されずにメカで作ってあるので、現場ですぐに修理できるようになっています。
家庭用や職業用とは姿形は似ていても中身は完全な別物で、仮に工場で家庭用ミシンを使ったとすると1週間で壊れるでしょう。

一芸必殺の工業用ミシンですが、これらは一体おいくらくらいすると思いますか?

 

つまり、ジーンズ1本縫うのに必要なミシンのお値段。

縫い子さんが10人しかしない工場だから、ミシンも10台・・・・なんてことはなく、ジーンズというアパレル製品の中でも極めて工業化が進んだ特殊なアイテムを縫うには、どんなに少人数の工場でも最低限のこれだけの種類を揃えないと、売り物を縫えません。

(専門用語の羅列ですが、めんどくさい人はスルーして下さい。)


・1本針の本縫い・・・40万円
・2本針の本縫い・・・・80万
・巻き縫い・・・・60万
・オーバーロック・・・・40万
・インターロック・・・70万
・カンヌキ・・・40万
・ベルト付け・・・100万
・スソ縫い・・・80万

・腕2本環縫い・・・80万
・ループ縫い・・・50万
・ループ付け・・・180万
・コンピューター模様縫い・・・200万
・ボタンホール・・・220万
・アイロン(ボイラー込)・・・50万
・エアーコンプレッサー・・・30万

 

1台ずつ買い揃えても、ざっと1320万円です。

ボタンホールなんて、ボタンホール以外は何もできない上に、ジーンズ1本に1つしかあけないのに220万もします。

稼働してないと、重すぎて文鎮にすらなりません。(笑)

もちろん、本縫いとかは1台じゃ足りませんし、針やハサミや裁断機もありますから、実際はもっとします。

ちなみに、宮城県のサキュウ専用工場では、工員さんは10人以下なのに30台のミシンが稼働しています。
工場では工員さんが札束の中(ミシン)で作っていることになります。

 

さらに、CAD(パターンメイク)は300万、CAM(自動裁断機)は1500万です。

ちょっとびっくりでしょう。

さらに、洗い加工はもっとすごくて、ワッシャーやら乾燥機やらボイラーやら浄水設備やら、いちいち大規模だし、ボイラーを焚く燃料は
毎日数100リッター燃やしますから、ランニングコストも莫大で、値段を知るとそらもう目まいがします。

ジーンズはブランドや価格に関係なく、何千万円分もの設備と何百人もの人力を使って、ようやく売り物にふさわしいものになるのです。


これを知ると、「工賃まけて〜」なんて言えませんが、言います。

仕事ですから。

 

たまにテレビで、焼き鳥に串を刺すだけの機械を見ますが、あんなのもウン百万するんでしょうね。

どんなものでも工業用は高いものですが、皆さんご存知のジーンズも、同じということでございます。

 

(次回から長編、国産ジーンズ誕生記)